アメリカは大統領選挙、欧州は新型コロナウイルスの第三波でなかなか落ち着く日がやって来ませんが、いつかは日が昇る、平穏な日々がやってくると信じ、頑張っていきましょう。
そんな中、日本でも新型コロナウイルスの影響がどんどんと産業界にも波及し、事業計画の見直しを迫られている企業が増えてきました。
三菱重工、国産ジェット旅客機の量産化を凍結…早期の収益困難と判断
三菱重工業は、国産ジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」の量産化を当面、凍結する方針を固めた。新型コロナウイルスの感染拡大で低迷している航空需要の回復には時間がかかり、早期に収益に結びつけるのは難しいと判断した。
2020/10/23 読売新聞オンライン 三菱重工、国産ジェット旅客機の量産化を凍結…早期の収益困難と判断 より
製造業が担っている社会的な意義とは?
テック界隈が多い暗号資産クラスタの方からすると、三菱重工のような企業は「目立たない」部類に入りますが、関連産業も含め、かなり広い範囲でビジネスを行っているため、多くの人の雇用を支えている、社会的意義としても重要な企業と言えます。
松下電器創業者 松下幸之助氏が「企業は社会の公器である」という言葉を遺したように、利益追求しか考えない企業はいつかは衰退します。
この概念は、日本的、東アジア的、儒教的、仏教的な概念ではなく、あの経営学の祖であるドラッカー氏も同じような発言をしています。
また近年、SDGs(持続可能な開発目標)という言葉が世界的に重要と認識されてからは、自己利益しか求めないような企業は投資対象や融資対象から外されるなど、今や「社会貢献」することは企業活動の当たり前、大前提となっています。
そういう意味でも製造業は「多くの人を雇い、設備を導入し、部材を購入してキャッシュに換える」ビジネスモデルが大半ですので、社会的な意義は大きく、政治面でもよくフォーカスされやすい業界となっています。
投資クラスタの観点から見ると、ROI(投資対効果)がITや金融と比べるとどうしても低いビジネスモデルのため敬遠されがちですが「企業城下町」という言葉があるようにその地域の在り方を変えてしまうほどの影響力を持っている訳で、社会的には非常に大きな役割を果たしています。
冒頭で紹介した三菱重工も典型的な製造業で各地域に企業城下町を形成している非常に影響力の大きな企業となっています。
そんな三菱重工ですら新型コロナウイルスには抗えず、経済産業省を巻き込み「社運」のかかったジェット旅客機事業を凍結するという判断を下すことになりました。
構造的に日本企業ではありがちなパターンだった?
航空機産業というのは高度な技術と安全性が求められ、また単価の高い製品となっているため開発期間も長く、参入障壁の高いビジネスであります。
また、部品点数が自動車の10~20倍と言われ、一般的には100万~200万点もの部品が航空機には使われています。そのことから関連産業の裾野も広く、「政治的」にも支援を得やすい、または協力を得やすいビジネスでもあります。
私自身、この業界に近い所で働いているため身をもって実感しているのですが、このような「参入障壁の高い」ビジネスの世界ではよく「内向き」、「独自の文化」、「人の交流が限定的」、「コスト感覚が薄い」という傾向にあります。
良い言い方をすれば「競合が少ない」、「家族的」、「長い付き合い」、「目先の予算に必死にならなくて良い」かもしれませんが、目まぐるしく変わる事業環境にタイムリーに対応できるか?と言われれば、構造的に難しいのでは?とどうしても思ってしまいます。
今回の三菱重工の件も今年の6月には北米拠点を閉鎖し、撤退戦を行っていたので「時間の問題」と業界内では言われてきましたが、ここまで事業凍結を決めるまで内部で相当揉めたのだろうな、と推測されます。
株式市場はドライなもので、「不確実性が無くなった」ことから、事業凍結の報道から1日で3.2%も株価が上昇しました苦笑
事実、2008年の事業化着手から、設計変更を重ね、納入時期を6度も延期し、苦しんできました。
このまま資金を流出し続けることに歯止めをかけたという意味では経営判断は支持されるべきものであります。
ただここで「ものづくり大国日本の技術力がここまで無くなったのか!」と批判的に判断すると本質を見誤ってしまいます。
三菱重工は戦闘機を開発する能力は以前からあり、その技術は決して世界的には劣っているものではありません。
また原子力発電の開発ノウハウや産業機械の量産技術、複合材の加工技術でも日本、または世界のトップクラスで「ジェット旅客機を作る」こと自体にそこまで大きな問題はありませんでした。
最大の問題は日本企業にあるあるの「保有している技術や製品をうまく市場に合わせて投入できない」ところにありました。
一般紙にはあまり書かれていませんが、航空機の形式証明を日本や欧州、アメリカ(基本的にアメリカで形式証明を取得できると大抵の国で運航が可能になります)で取得するノウハウが全くなく、各規制当局へのライセンス取得のための設計変更が膨大にあり、人や時間、資金を大幅にロスしてしまったことが最大の原因です。
途中から海外の人材を引き抜いたりしましたが、上述したようになかなか外部の人材、しかも外国人がすぐ活躍するような環境とは思い辛いので、上層部が思い描いていた計画とは実態は大きく異なっていったのでしょう。
その点、海外の競合他社ではライセンス認証を得るためのノウハウや人材が潤沢で、その市場の制約を理解し、そこに適用してうまく製品をすり合わせてきました。
航空機産業は国の影響力が大きいため軍産複合体的な要素が大きいですが、多少技術力が劣っていても割り切って海外製の部品を使用するなど、合理的な判断をしている企業が多いです。
その点、今回のケースは「またこのパターンか」と思ってしまう人は私以外にもたくさんいることでしょう。
繰り返しになりますが、「技術力」ではなく「売り方」に問題があったという構造的なパターンでした。
変えていくのは一人一人
現在、アメリカと中国が5Gでも先行しそうで、21世紀前半の世界では経済的にもアメリカ、中国、その他という世界になっていくでしょう。
世界的なコンサルの予測では日本は人口減があるものの、世界3~5位の規模を21世紀では維持すると言われており、個人的には「意外にしぶといやん」と思っています笑
日本の雇用体系は変わりつつありますが、「雇用の流動性」が低かったためどうしても「独特の文化」が会社内部に構築されやすい傾向にあります。
一つの集団で長年活動すると考え方も固定化し、時代の変化にタイムリーについていけない可能性が非常に高いです。
IT化だけでなく今回の新型コロナウイルスのパンデミックによる社会の変化はこれからもより進んでいくと思われます。
その中で地域をよくしたい、日本をよくしたい、いや、世界をよくしたいのであれば一人一人が行動するという気概を持たなければなりませんね。
そうすれば世界はもっとよくなると確信しています。
以上、金崎明人がお送り致しました。
この記事を書いた人
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東証一部上場企業で会社員として働くも、趣味の業界であるため、ストレスフリーで過ごす。 ファンダメンタル分析をベースに長年相場で戦い、経済的なストレスからも解放され、ストレスフリー。市場平均は常に超えてます。 社畜を軽蔑していることからか、辛口コメントなのがタマにキズ。
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